68回目の終戦記念日を迎えた今月は戦争をテーマにした作品を取り上げます。
作品は昭和19年11月末にレイテ島に上陸した日本陸軍の田村一等兵の独白の形で構成されています。
レイテ島とその周辺海域は、太平洋戦争最大の激戦地のひとつです。
1944年10月20日ダグラス・マッカーサー率いるアメリカ軍がレイテ湾に上陸。
レイテ島がフィリピン戦線の主戦場として攻防が繰り広げられます。
物量に勝るアメリカ軍は日本軍の物資と兵員の補給路を完全に断ち、孤立した8万人余りの日本軍兵士がほぼ全滅するという惨劇の結末を迎えました。レイテ島からの生還率は3%ともいわれています。
大岡昇平は自らの従軍体験を元にこの作品を書き上げています。
主人公田村一等兵は以前から罹患していた肺病が悪化し、野戦病院に行かされますが受入ができない病院から拒否され、部隊からも放逐されてレイテ島の山野を彷徨します。
人が目の前で次々と死に、腐敗した死体が散乱する極限状態の中で、田村は自らの生への執着と絶望の狭間を行き来し、精神的にも異常な状態に陥っていく。
現地人を人格なきモノとして捉えることで保とうとする人間の精神性とは何なのか。そして食料として「猿」を狩猟して食する場面に至って、田村は自身の精神的均衡が崩壊することを悟るのであった。
自らが生き延びるために、人はどこまでの行為が許されるのか。
死せる肉体への無頓着と食への渇望。
人として生きることに神への信仰はどこまで力があるのか。
現代はいま別の意味で人としての生き方が問われる時代になったとも思います。
短い作品ですがじっくりと語り合いたいと思います。
さて、桂冠塾は今回で100回目の節目を迎えます。
「子供たちが本を読まなくなった」と言われ始めてどのくらい経つでしょうか。
「子供は大人の鑑」とも言います。果たして本を読まないのは子供だけなのでしょうか?
「よりよく生きたい」と願う気持ちは、生命の叫びとして存在すると私は思いたい。迷路に入り込みかけているかもしれない私たちは、その解決の糸口をどこに求めたらいいのか。そのひとつに、時代を超えて読み継がれてきた書籍があると私は思います。
このように問いかけ、様々な名著に触れながら互いに研鑽しあう場として2005年4月に始めた桂冠塾の取組み。毎月1回、1冊の本を取り上げて参加者の方々と共に読み、語り合って一つの区切りを迎えました。
特に100回記念イベントを行なうわけではありませんが(^_^;)これからも地道に続けていきたいと思います。
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