この作品は、第二次世界大戦中にドイツの強制収容所を経験した事実をもとに心理学者の立場から著述したヴィクトール・フランクルの著作である。
作品は
第一段階 収容
第二段階 収容所生活
第三段階 収容所から解放されて
の三部で構成されている。
日本語版としては霜山徳爾氏の訳と池田香代子氏の「新版」訳がある。これは単に旧約・新約ということではなく、原作自体が新版となっていることが「訳者あとがき」で触れられている。
極限状態の強制収容所に送られる人々の思い、不条理とした言いようのない、いつ突然に死が訪れてもおかしくない状況下で、精神を病んでいった人もいた中で、かろうじて正常な精神状態を維持できた要因は何であったのか。
本文では、収容所生活を送る人達の多くが感じていた精神状態を精神科医の立場で分析した文章が並んでいく。
一方で、収容所を監理する側で役務に従事する人間たちの言動には非人道的な所作も散見する。同じ人間でありながら、立場が違うだけでなぜこうも無感覚になれるのだろうか。フランクルの眼はそうした被収容者と収容者の両方に向けられている。
人間の心はきれいに二分されるものでもない。
被収容者でありながら同胞である同じ立場の被収容者を売る行為を行う輩が少なからず出てくる。逆の立場である収容所勤務の人間の中にも、少数であるが被収容者を気遣う者もいた。フランクルの筆は、そうした人間模様を淡々と描き続ける。
その意味では現代史を綴るドキュメンタリー作品の枠を超えて、現代を生きる私達の心の奥底に巣くう病理へ問いかける作品とも言えるのではないかと感じる。
決して長い作品ではないので、ぜひご一読いただきたいと思う一書である。
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